ちょうど去年の今頃、福島へ出張して撮影をさせていただきました。
そのときのご依頼人である西本則子さんが、撮影とその後について記事にしてくださいました。
こちらの記事を読んで、ずーんと胸に突き刺さるものがありました。人様の写真を撮ることの重みも感じました。
なので今日は、この記事へのお返事の代わりに、この日の撮影や写真を残していくことの価値について考えてみようと思います。
施設に入所しているお母さまの一時帰宅の日に
撮影に参加したのは、ご依頼人のお母さま、ご依頼人のおばさま方お二人、そしてご依頼人の計4名。お母さまとおばさま方お二人は姉妹ということになります。
ご高齢で施設に入所されているお母さま。この日はご実家に一時帰宅されるとのことで、遠方からおばさま方お二人も駆けつけました。
つたないイラストですが、こんな感じ。
私は、施設からご実家で過ごすひとときに同行し、撮影をさせていただきました。
言葉によるコミュニケーションがとれない不安
お母さまは、言葉が出ないということは事前に伺っていました。実は、そのことがずっと不安でした。
初対面の方を撮影することは多いのですが、「はじめまして」と挨拶をしてから会話でコミュニケーションを取っていくのが常です。いい表情をもらいたいときに会話や言葉というのはとても大事だと思っていて、いくつかの引き出しを用意して臨みます。
これまでの生活の中で施設に入所されているご高齢の人と接する機会もほとんどなかったし、ましてや言葉によるコミュニケーションが取れない人の撮影というは初めてのこと。どうなることかと、直前までなにもわからない状態でした。
言葉はなくても、気持ちは伝播する
でも、いざ撮影が始まってみると、その不安はすぐに消し飛びました。撮影してしばらくしたときに、顔をくしゃーっとして、笑いかけてくださったんです。なんか、受け入れられているかも、安心してもらえているかも、という気持ちになりました。
それから、ご実家に戻り部屋に入った瞬間にはまた顔をくしゃーっとして目をうるませる場面もありました。この部屋が懐かしいんだろうなぁ、戻ってこれたことが嬉しいんだろうなぁと、その気持ちが手に取るように伝わってきました。
言葉はなくても、気持ちは伝播する。
そんなことを体験した一日となり、私にとって忘れられない日となりました。
フォトブックの役割
撮影した写真で、フォトブックを作らせていただくことになりました。
お気に入りの写真を伺いつつ、この日の一連の流れがわかるように、また、そのときの気持ちの盛り上がりも感じ取れるような構成に仕上げました。
そのフォトブックをすごく気に入ってくださって、みんなの手元に置いておけるようにと追加のご注文もいただきました。
普段はそれぞれに離れた距離に住んでいる4名がいつでも再会できる、一時帰宅という特別な日の思い出をいつでも思い出すことができる。
そんな役割をこのフォトブックは担ってくれているようで、うれしく思っています。
コロナ禍でのフォトブックの役割
そしてコロナ禍。フォトブックの役割は、より重要なものとなっていったようです。
先にご紹介した記事 ▶︎「会えない時間をつなぐ写真」 からの引用です。
ケアマネさんとのお話から、おばたちの撮影会で作ったフォトブックが母の手元で活躍していると教えていただきました。
「娘さんたちと一緒に写真撮ってもらったよね」
「会えるようになりたいね」と声をかけていただいては母がにっこり微笑む・・・日々の声掛けを続けてくださっていたそうです。
実は会えない母の様子を心配するおばたちの手元にもフォトブックがあります。
「母はおばあさんたちとの写真をみて、にこにこ笑っていますよ」と報告すると、おばは大喜び。
「私もね、この写真に元気~?って言ってるわよ」とハイテンションです。いつかは会えるし、いつかは会えなくなる。
でも会えない時間をつなぐ写真があるから、今日も元気です。
コロナ禍でのストレスはさまざまありますが、「会いたい人に会えない」ストレスや寂しさ、もどかしさが一番大きいのではないでしょうか。
ここにもまたもどかしさに直面している方々がいて、その手元には私が作ったフォトブックがありみんなをつないでいる、、、という事実に胸にギューンと突き刺さるような、嬉しさなのか誇らしさなのか、複雑な気持ちになりました。
場所と違って、人というのは、タイミングによっては次かならず会えるとは限りません。
だからこそ、写真がつなぎとめてくれる絆も深く固いものになります。
いつかは会えるし、いつかは会えなくなる。
このフレーズにも、大切な人と過ごせる時間には限りがあることを感じ、ますます人様の日常の片隅に足を入れて写真を撮らせていただくということは、とてつもない重要な任務だということが身に染みました。
出張撮影で提供できる価値は?
今回の撮影から、本当にたくさんのことを学ばせていただきました。
言葉を介さないコミュニケーションを体験させていただいたり、写真がその後お客様の中でどう生きていくかも見せていただきました。
出張撮影という仕事をさせていただいていて、私の撮影スキルで良い写真をお届けする以上の価値をどれだけ提供できているかは常に向き合っている課題です。
願わくば、撮影が特別な一日になる体験を提供したいし、一生の宝物になるような写真をお届けしたい、フォトブックという形で手元に置いて、みんなの手垢でボロボロになるくらいまで眺めてもらえたらいいなと思っています。
まだまだ理想通りにはいかないこともありますし、愛媛に来た今はまたスタート地点に戻ってきたような感覚ですが、まずは目の前のお客様にめいっぱい向き合って、撮影していけたらと思います。